Column No.001


ルネ・ラリックはアールヌーボー、アールデコの時代に、宝飾デザイナー、ガラス作家と して装飾芸術の世界で幅広く活躍したフランスを代表する芸術家です。自然美への超越した哲学と、建築的な機能美を、完璧なまでの構成とバランスで具現化し、当時の人々だけでなく現代の私たちまでをも魅了し、国を超えて世界中の人々に愛され続けています。
葛飾北斎や安藤広重の植物などの自然画から、日本人の自然美への美意識や感性にインス ピレーションを得て共感し、彼の作品に日本文化が影響したとも言われています。そんな私たち日本人が、ラリックの作品に共感でき、人気があるのも頷けます。現在、白金の旧朝香官邸、現庭園美術館に残されている内装からも、彼の当時の世界にあまねく人気を伺い知ることができます。

ナポレオン続治下の1860年、ラリックはフランス、シャンパーニュ地方の田舎の町で生まれました。広大な自然を身近に触れて感じることが、後の彼の自然への執拗なまでの執着と哲学を生み出し、その作品に影響を与えたことは言うまでもありません。若くして父親を亡くしたラリックは、早いうちから宝飾芸術の修業を積みました。当時の教会建築に見られる装飾芸術にも関心をしめしましたが、どんなに正確で人工的な機能美よりも、自然の中に潜む創造性豊かな魅力、人間の根幹とも言える自然の魅力に魅せられ、その自然の中にある正確性、その完璧なバランスを追求しました。時代の変化とともに一般向けの量産品を作成するに至っても、その機能美と自然の調和は変わることなく表現されています。
ラリックは、自然の中にある日をそむけたくなるような一般的にはグロテスクで受け入れがたい現実にも真っ向からぶつかっていきました。むしろ取り立てて情熱を注いだほどで した。元々、カルティエなどの伝統的で堅実な宝飾店で働いていたラリックが、顧客にそのデザインを受け入れられず、独立したのも頷けます。ジュエリー製作においても、高価で美しいダイヤモンドだけに頼らず、天然で妖艶な輝きを放つオパールなどの石を多用していたと言われています。自然の中にある、グリーンや茶色、赤などの再現にも情熱を注ぎましたが、彼は特に水の中に感じられる水色、青色に特に重きを置きました。当店フオ−ンテーヌのイメージカラーでもあるブルーはラリックにおいても特別な色だったのです。自然というより、水の中に感じられる水色は泉のように湧き出て、決して尽きることのない彼の創造性を象徴しているかのように見えます。ガラス作家として活動して後も、オパールの持つ不思議で魅惑的な世界を、オパールセントガラスによって表現し1920年頃から 多用しています。オパールセントガラスを使った香水瓶やテーブルウエアが、多く作られ、 一般の家庭にもこのラリックの水色は浸透していったのです。またラリックは自然美を表現する方法として、パチネと言う方法を多用しました。シールベルデュによって作成された1点物も量産された作品も、このパチネによって、彫刻的なモチーフの陰影が強調され、エナメルによって色をつけるよりも格段雰囲気のある古色になり奥深い印象を与えました。量産品に対しても変わらない愛情を持って作成する彼の情熱が、この機能美と、自然美の調和に表現され、多くの人の賞賛を得たのも頷けます。

アールデコに作成された彼の作品で ”フランスの水源“ と言われる噴水があります。現代的で革新的、かつ未来的なこの噴水は、当時の人々には斬新過ぎて受け入れられないこと もありました。でも私には、ただモダンなデコの要素をふんだんに取り入れた作品ではなく、彼の源にある全ての自然を生み出す ”水“ の湧き出る泉を象徴しているかのように思えます。常に未来を見据えて新しいものに挑戦し、斬新なものを生み出し、それを取り入れる前衛的なスピリットの中に、幼少時代から叩き込まれた偉大な自然からの恩恵に感謝する、自然美に対する敬意が感じられるのは私だけでしょうか?ここにも見え隠れする、 彼の自然美と機能美の完璧なまでの調和。執拗なまでの自然への彼の執着は、ラリックの変わることのない自然への普遍的な愛情であり、全ての生きるものに対する彼の深い感謝の表れに思えてなりません。是非皆様にもその偉大なラリックの愛情の一部をご堪能いただければ・・と思います。